チェロとセミリタイア生活

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ベートーベンの小川

1970年ごろのはなし

私の生まれ育ったところは、新宿まで歩いて10分という都会の真ん中で。

と言っても、結構静かな住宅街だった。
表通りは舗装されていて、新しい家が立ち並んでいたけれど、一歩通りを入ると木造の小さな家屋がひしめきあっていて、舗装も充分されていなかった。多分、戦後の混乱期に建てられた住宅街だったのだろう。ある時火事が起きて、道が狭過ぎて消防車はもちろん、ホースすら届かないと言う事態が起きた。(となりの大きな庭のあるお宅の門を壊して消防車を庭に入れ、ホースを伸ばして放水して消火したらしい)色んな意味で危険ということでしばらくたって区画整理された。
空き地には野生のリスがいて、胡桃を買ってきて遠くから食べるのを見たりして、結構自然も残っていた。

我が家は坂の上にあったのでちょっと離れた(歩いて30分くらい)高層ビルの工事の様子がよく見えた。辺りに高いビルは、全くなかったから、工事の様子が本当によく見えた。日本で初めての高層ビル(確か京王プラザホテル)だったので、どうやってビルを高くするのか、大人も子どもも興味津々だった。少しずつ少しずつ高くなってきているのを毎日わくわくしながら見ていた。

夕食の買い物に行く時は、小学校の裏門の前の細い道を通った。道の途中に細い水路があり、そこを渡るのに、橋の代わりにコンクリートの棒の上を歩かなくてはいけなかった。手すりもなく、渡してあるだけの棒だった。あの頃はそんな「危ない」ところが沢山あった。
私は棒を渡るのが怖かった。別の道で大回りして行こうと訴えても、誰も聞いてくれなくて、皆その棒の上を歩けと言う。
私はいつも、励まされたり叱られたりしてベソをかきながら渡った。

それから何年かたって、そこは工事されて、歩きやすい道に変わった。水路の周りがコンクリートで固められて、水が見えなくなってしまった。怖くて渡れなかった棒(?)も撤去された。
同時に看板が立った。
「春の小川の碑」と書いてあって、ここが春の小川のモデルとなった川であることが書いてある。

春の小川の歌は、幼稚園でも学校でも習ったし、テレビでも春になるとよく流れていた。
今よりかなりメジャーな歌だった。
私もよく歌っていた。

春の小川は、さらさら行くよ。
岸のすみれや、れんげの花に、
すがたやさしく、色うつくしく、
咲けよ咲けよと、ささやきながら。

習ったとき、先生は
「小川の情景を思い浮かべて歌いましょう」と、言っていた。小学校の音楽の教科書にも、春の小川と山や川のある田舎の田園風景の絵が描いてあったような気がする。(不確かだけど。)田舎の風景は、見たことがなかったけれど、なんとなく、想像して、自分なりの小川と周りの風景を作っていた。

しかし、その小川がこれだった。
怖い怖いとべそかいた棒の下の水路の水があの歌に出てくる小川だった。
その歌が作られたころは、きっと、歌詞通りの風景だったのだろう。
間違ってはいないのだろうが。

その看板で、私の中の歌のイメージが変わってしまった。
春の小川を聴くと、ちょっと複雑な気持ちになる。
渡るときの、怖かった思いがまだ残っていて、春の小川はちょっと怖い(笑)


もう30年くらい前か。友達とウィーンに行ってベートーベンの散歩道と言われるところに行った。
そこの近くにベートーベンは住んでいて、そこで交響曲第6番の田園を作ったとか。
散歩道は、田園の構想を練った場所と言われていて、有名な観光地になっている。

田園の2楽章は、小川のほとりの情景
という副題がついている。
ガイドブックには、その小川は散歩道の途中にあると書いてあった。

どんな素敵な小川だろうと思ったら。。
住宅街に流れているあんまり趣きのない、本当に普通の川だった。
もちろん、あの「春の小川」の水路に比べると、しっかりとした、ちゃんとした川で橋もしっかりした手すりのある橋だった。
曲が作られたのは200年も前で景色が変わっているのだろうけど。
観光地として存在してるくらいだろうから、きっと素敵な川だろうと勝手に盛り上がっていただけに。
普通の川すぎて、びっくりして、そしてかなりがっかりした。
橋の上から小川を見ながら
「こんな小川であの曲書くって、やっぱりベートーベンって天才よねぇ」
と、変な感心の仕方をした。

その日は丁度日曜日で、両替のお店が閉まっていて、日本円をシリングに替える(まだユーロになってなかった)ことが出来なくて、私達は本当にお金がなかった。
レストランなんてとてもとてもお金が足りなくて入れなかった。
わざわざウィーンまで行って、何をしてるのかと思うが。
その時は、手立てがなく。(あったかもしれないが思いつかなかった)、値段を見比べながら屋台の安いサンドイッチをぱくついた。
どこをどう歩いたのか覚えていないけれど
あちこち歩きまわった。
お金がないのでカフェで一休みも出来ない。でも、歩きつかれて、座りやすいところを探して休んだ。
なけなしのお金(笑)で買ったジュースか何か飲んでいたような気がする。

ふと後ろを振り返ると、ブドウ畑が一面に広がっていた。広くて平地で、ずっとどこまでも繋がっているようだった。
友達と「うわぁー」と叫び、どちらからとなく田園の最終楽章のメインフレーズを歌い出した。
きっと、ベートーベンはこのブドウ畑を見ながらこのフレーズを作ったんだろうなぁ。
と、思った。

実際のブドウ畑とは違うけれど
こんな感じでした。
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www.youtube.com
26分40秒くらいから、ステキなフレーズが出てきます。

やっとやっと風景と音楽が一致した。

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