母の入院している老人病院は月に2回ほど音楽コンサートがある。
一回30分ほどのコンサートだけど。
聴いている人は、車椅子のご老人とその家族なので、そのくらいの長さが丁度よい。
時間になると、ゾロゾロと車椅子に乗せられた
患者さんが運ばれてくる。
車椅子も色々あって、自分で操作できる車椅子もあれば、押してもらう車椅子、それも自分で座れる人用の車椅子や、首を支えて乗るもの、リクライニングが効いている殆ど寝たきりの方が乗る車椅子もあって、世の中こんなに色んな車椅子があるんだ!と感心しながらいつも見ている。
平均年齢89才のこの病院。
コンサートをやっていても、患者さんたちは皆目をつぶっていらっしゃる。
時々、大声を出す方もいて、こちらは全然構わないし、演奏をしていらっしゃる方も全く気にしていない。
ただ、私としては、そんな状態で聴いていて楽しいのかな?と思っていた。
30分とはいえ、動かないように、静かにするように、と、そんな雰囲気になってるから、結構辛いんじゃない?というか、楽しい??
と、思いながら。
母は認知症が進んでいるとはいえ、このコンサートはとても楽しみにしている。
でも、今は楽しいけど、寝たきりになったらどうなんだろう?
わからないなら、来ても仕方ないかもなぁ。
と、はやくも先のことを考えてしまい、いやいや、今楽しんでいるのだからそれでよいことにしよう。
と、思い直していた。
ある日のコンサート。
ハープの演奏会だった。
コンサート会場で。
母の隣の隣の女性は、車椅子に座って参加していらした。
背中を丸めて座っていらっしゃるけど、ずっと下を向いていて、何も反応されない。
娘さんが話しかけても反応なし。
娘さんは慣れているようでそれでも色々話しかけている。
途中、他の患者さんが話しかけていたがやっぱり反応なし。
代わりに娘さんが対応していた。
寝ていらっしゃるのか、聞こえないのか、もしかして御気分が悪い?
とも思うほど、内にこもっていらして、周りとはシャットアウト!という感じだった。
コンサートが始まって、明るい曲が流れても、楽しいトークが始まってもやっぱりシャットアウト状態で。。
座ってるの辛くないのかな?と余計な心配をしてしまうほど、周りとは遮断した世界を作っていらした。
コンサートは続き、クラシックの曲から、懐かしい母の世代が小さい頃歌っていた曲に変わった。
その何曲目かで。
向こうから綺麗な歌声が聞こえてきた。
あれ?
っと思って、横を向くと、さっきシャットアウトしていたおばあさんが、すくっと背中を伸ばして歌っていた。
ついさっき、背中を丸めて、下をむいて周りから完全に遮断していたのに。
別人のように、背中を伸ばして、前を向いて、大声で歌っていた。
曲は繰り返されて、おばあさんの歌は2番になった。おばあさんは、歌詞を間違えることなくキチンと、本当に綺麗な声で歌っていらっしゃる。
演奏しているハープのお姉さんも本当に嬉しそうで綺麗なハーモニーが続いて、聴いているこちらも本当に嬉しくなった。
曲が終わると、お客さんもハープの方も拍手でおばあさんを褒め称えた。
でも、おばあさんは、それに応えることもなく、拍手の中、また下を向き、背中を丸めて、元の姿勢に戻ってしまった。
さっき、あんなに伸び伸びと背中を伸ばして前を向いて歌っていらしたのに。。
あっと言う間に戻ってしまった。。。
でも、まわりの私達は、本当に幸せだった。
病院の方々も同じだったと思う。
コンサートをやっていて、果たしてこれは役に立っているのだろうか?
と、悩むことも多いと思う。
でも、皆さんちゃんと聞いていらっしゃるということがよくわかった。
何より、私はその現場にいられたのが本当に幸せだった。
音楽ってすごいな。と思った瞬間だった。