チェロとお昼寝

趣味のチェロとか とにかくもろもろ。アラ還主婦のつぶやき

初めてのチェロ

数年前にチェロを買い替えた。

その前に持っていたチェロは、大学2年のときに買ってもらった生まれて初めての自分のチェロだった。1985年西ドイツのバイエルン生まれシュスター という兄弟でやっている工房で作られたものらしい。初心者用の工場生産のものだったが、周りの友人が買っていたものより、値段で言えば他の人より10万円くらい高いチェロ だった。(その金額の差があとあと効果を発揮した)成人式の着物の代わりにとお願いして買ってもらった。

 そのチェロと一緒に、大学を楽しみ、卒業して、今度は市民オケも参加した。若かったので、かさばるチェロ を持っていろんなところに行った。今は皆、ハードケースが当たり前だが、その頃はハードケースは高くて、何より「上手な人が持つもの」という、不文律があり、私たちアマチュア、それも腕に自信のないアマチュアは、ソフトケースで移動していた。ソフトケースで、満員電車に乗り、合宿や演奏会の前は、楽器をトラックに乗せて移動した。今、よく考えるとよくもまあ壊れなかったものと怖くなるが、皆それで行動していた。

 結婚したときも、もちろん一緒に引っ越した。ずっといつも同じ家で過ごしていた。35年一緒に過ごした。つまり、親よりも夫よりも長く過ごした相手である。 

 命の次に大事なもの!

なんて、恥ずかしげもなく公言していた。

子育てが一段落した頃また市民オケに入団して周りをみると、皆上等の楽器を持っている。     簡単に言うと、

 羨ましくなった。

もっと恥ずかしいことをいうと、「なんでそんなに上手でもないのにあんな上等な楽器もってんの?」と、嫉みまで加わった。。。。

 本当に恥ずかしい。。。。

そして、四年後くらいで今の楽器に出会った。

 そのチェロは、100年以上たっているヨーロッパからきたチェロだった。ヨーロッパは、2回の大戦を経験しているので、高くない普通の楽器は、破壊されてしまい残っていない。この楽器は、破壊はまのがれたものの、かなり傷んでいた。しかし、裏板と表板(楽器の中心となっているところ)は、問題なかったので、楽器屋さんが購入。ネックの部分は、古くなって使えなかったので楽器屋さんが作り替えたそうだ。

弾いてみると簡単に楽器が鳴って、音が響いた。それまで経験しなかった、楽器が鳴るということが、簡単に体験できた。

 前のチェロは、弾いても弾いても楽器が鳴らなくて、響かない。全く鳴らないなら諦めもつくが、たまーに おっ!というような良い音がなることもあるので、腹が立つ。もうひとつ付け加えると、先生が弾くとちゃんと鳴る。

でも、新しいチェロは、何の苦労もなく鳴った。。私のようなへたっぴが弾いてもすぐに響いた。

 簡単に心変わりして、買うことにした。

前の楽器は、場所的にもお金的にも手元に置いておけなかった。幸い、いつもメンテナンスしてくれていたお店(新しいチェロもそのお店で買った)で買い取ってくれた。それほどランクの高くない、つまり安いチェロだったが、買った値段の半分くらいで(もう少しランクが低かったら買い取りませんでした。と言われた)買い取ってもらった。娘を嫁に出す父親のような気分で、娘(チェロ)がちゃんと評価されたことが嬉しかった。

 新しいチェロを買ったことは本当に嬉しかったけれど、今まで一緒にいたチェロと別れるのは悲しかった。じゃあ、買わないで前のチェロを使い続ければいいじゃない!と言われるが。。そういうことじゃない。。。やっぱり、響きに憧れる。前の楽器じゃ体験できないから。。車を新車に買い替えるのと似ているが、今のチェロは35年も一緒だったんだから、もっと寂しい。別れの前の日、一生懸命磨いて。

ありがとう。ありがとうね。

と何度も言った。楽器屋さんに手渡すときも、本当に寂しかった。

 その後の楽器の行方は知らなかった。というより怖くて聞けなかった。あのレベルの楽器は、初心者が手にする楽器である。よって持ち主によっては、酷い使い方をされることがよくある。買ったは良いが、すぐ弾かなくなってゴミ状態になったり、粗雑に扱って、ボロボロになったり。いまどうしてるかな?と気にしては、楽器の幸せを願っていた。

一年後、発表会前にチェロの先生に

「チェロと久しぶりに会えますねぇ」

と言われて、びっくりした。

なんてことない、先生のお弟子さんが購入したそうである。まだ始めて一年ほどの大学生だったが、学生だからと、楽器屋さんはほとんど儲けなしの値段で売ったらしい。

発表会で学生さんも私も演奏する。そして昔のチェロも参加するのだ。

チェロに再会した。

前よりピカピカに磨かれて、もう学生さんのチェロになり切っていた。とても大事にされていることがわかった。触らせてもらったら、懐かしい触り心地だった。また会えた。嬉しかった。

学生さんはまだチェロを始めたばかりだったけれど、学生オケをしながら先生にもついてキチンと練習しているので、綺麗な音をだしていた。素晴らしい。。良い人に貰われたことで嬉しかったし、安心した。

今の新しいチェロも、いずれ次の持ち主に渡ることになる。それは、私がチェロを辞める時で、本当に寂しい時だけど。

でも、楽器の寿命は、人間の何倍もあるので、持ち主は、次の持ち主に渡す使命がある。

決して上等ではないけれど素晴らしいチェロである。

渡すまでは、大事に有効に使わなくてはと思ってる。。